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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(行ツ)65号 判決 1967年9月12日

上告人 片山弘

被上告人 江戸川税務署長

訴訟代理人川村俊雄 外三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする

理由

上告代理人山田尚の上告理由第一点について。

所得税法(昭和二二年法律第二七号で同二九年法律第五二号による改正前のもの)は、通常の更正処分(いわゆる白色申告に対する更正)の通知書には総所得金額、純損失金額等について法定の所得別にその内訳金額を附記すべきものとし(同法四六条七項)、納税義務者のいかなる種類の所得について、いかに更正したかを明らかにさせることにしているが、青色申告に対する更正処分については、右の程度の附記をもつて満足せず、その更正通知書に、前記の附記事項に代えて更正の理由を附記しなければならないものとしている(同法四六条の二第二項)。このように白色申告と青色申告とによつて取扱上の差異を認めているのは、同法が青色申告書提出承認のあつた所得については、その計算を法定の帳簿書類に基づいて行なわせ、その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることのないよう保障している関係上(同法二六条の三、四六条の二第一項)、その更正にあたつては、特にそれが帳簿書類に基づいていること、あるいは帳簿書類の記載を否定できるほどの信憑力のある資料によつたという処分の具体的根拠を明確にする必要があり、かつ、それが妥当であるとしたからにほかならない(最高裁判所昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決、民集一七巻四号六一七頁参照)。してみれば、右理由の附記は、法定の帳簿書類の記載に基づいて計上されるところの青色申告書提出承認のあつた所得について更正のあつた場合に限られるべきは当然であつて、青色申告に対する更正であつても、それ以外の部分に関する場合には、白色申告に対する更正と同様に処理されれば足りるものと解するのを相当とする。従つて、青色申告書提出承認のあつた事業所得の計算に関するものでない本件更正処分の通知書には理由の附記を要しないものとした原判決の判断に、所論の違法は認めがたい。

論旨は、右原判決の判断に対し、それでは、処分庁において更正の内容を青色申告書提出承認のあつた所得に関するものとみるか否かによつて、あるいは理由の附記が必要となりあるいは不要となることになつて、法が青色申告に対し理由の附記によつて濫更正の防止を保障した趣旨に副わないものと非難する。更正につき詳細な理由が示されることが一般には望ましいことであるにしても、法が特に青色申告に対する更正に理由の附記を規定したのは、その更正につき法定の帳簿書類に基づく実額調査を保障するため以上のものとは解しがたく、もしかりに青色申告書提出承認のあつた所得に属するものをそれ以外の所得として法定の実額調査によらず理由の附記もなく更正するようなことがあつたとすれば、その場合には、前叙のように白色申告に対するのと同様の附記がなされるはずであり、納税義務者において、その違法を主張してこれが是正を求めることもかたくないのにかんがみれば、そのような違法な措置がたやすく行なわれうべきものとは認められない。結局、所論は、法の要請を超えて理由の附記の必要を主張するものとして首肯しがたく、採用できない。

同第二点について。

原判決の採用した被上告人の主張は、本件更正および審査決定には上告人の納付済源泉徴収税額を過少に認定した誤りが存するにしても、他面、上告人には扶養控除額を過大に計上した不実申

告があり、この点を是正して計算すれば、源泉徴収税額の訂正にかかわらず、審査決定による納付税額よりも一、六九八円多額となるので、審査決定によつて訂正された本件更正処分によつて上告人が負担する納税義務は、正当な所得税額より過少であつて、上告人に違法に不利益を被らしめるものではないから、前記源泉徴収税額の過誤をとらえて本件更正取消の事由とすることはできないというにある。

論旨は、これに対し、更正処分の取消訴訟において主張を許されるのは、当該更正において確定された課税総所得金額をその数額において正当化する主張に限られるものとし、更正または審査決定において看過されていた扶養控除額の変更のごとき課税総所得金額に影響すべき事実を新たに訴訟において主張することは、右の事実を理由とする再更正を経たうえでなければ許されないものと主張する。しかし、被上告人において、審査決定によつて訂正された本件更正処分によつて確定されたところは上告人に対する当該年度の所得税の正当な納付義務内容を下回るものと主張する趣旨は、その正当な所得税額を改めて確定しその具体的租税債務としての存在を前提としているのではなく、正当な所得税額は本件更正の結果を超過するはずであるから、本件更正処分は上告人に対し違法に納税義務を重課したことにはならないというにすぎない。このために、上告人の扶養控除額の過大が主張され、その事実が認められたとしても、それによつて直ちに本件更正処分によつて確定された課税総所得金額ないし納税額に変更をきたすものでもなく、単に右更正処分がそのままの内容で維持されるだけのことである。従つて、所論のように、かかる主張は被上告人において再更正をしたうえでなければできないとする理由は存しない。しかも、更正または審査決定では考慮されなかつた事実を、処分を正当とする理由として、訴訟の過程に至つて新たに主張することの可能であることも、原判示のとおりである。してみれば、原判決が上告人の扶養控除額に関する不実申告の事実を認め、被上告人の前叙の主張を採用したのは相当であつて、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中二郎 柏原語六 下村三郎 松本正雄)

上告理由書<省略>

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